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巡り来た本

「零下51度からの生還」 ベック・ウェザーズ著 光文社文庫
「空へ-エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか」 ジョン・クラカワー著  文藝春秋社

20060702133210.jpg
同じ題材の2冊読み比べることで理解が重層的になり、
またお互いの視点の違いが面白かった


8848m。氷に覆われたそのピラミッドには、さまざまな国からさまざまな人々が、世界一の高み目指してやってくる。

この2冊の本は、今から10年前の1996年5月10日、ネパール側から登頂したエヴェレスト営業公募隊の、生き残り2人の手によるもの。
女性で2人目のセブンサミット登頂者、難波さんもこの時の犠牲者なので、あの時の、と思い出す方もいるのではないだろうか。

モンスーンの合間の好天の窓を狙って、この日エヴェレスト頂上目指した登山隊は3隊。
しかし好天は、時計の針と共にジェット・ストリームに変わる。
想像を絶する環境の中、「合計19人の男女がこの山の上部で嵐に捕まって立ち往生し、なんとか生き抜こうと苦闘していた」。

「空へ」は、この時、アメリカの雑誌取材という名目で遠征隊に参加していたジャーナリストの記録である。
登場人物が多いので始めとまどったが、メンバーのキャラ、人間関係、隊ごとの相違などのバックボーンが手際よくまとめられているうえ、さまざまな出来事-深刻な高山病、他隊員の死、ちょっとした手違いが結果として遅れを招く様など、行程を進むごとに現れる高山での試練にドキドキ。
あの時、エヴェレストで何が起こったのか。生と死のドラマから目が離せない。

だいたいこの7000、8000という高さは人の生きるところではない。
酸素不足と寒さで心も体も衰弱、脳細胞も次々に死んでいく。正常な判断力も鈍ってきて、ここに長く留まることは死を意味する。7500m以上が“死の地帯”と呼ばれる所以である。
…風速130キロだの、体感温度-50度だの-70度だの、もうこのへんになってくると想像もできない。未体験の数字だけの世界なので、どっちも大差なく感じてしまうね。

ベースキャンプ(5360m)より上部に行けば、登山は宗教行事に似た厳格なものとなる、と著者はいう。
「エヴェレストに登るということは、何よりもまず苦痛に耐えるということだ」。
「ここに来ている大部分の者が求めているものは、聖籠のようなものではないだろうか」。

私は5000m級に数回登ったきりだけど、眼下に広がる雲の海とか突き抜けるように青い空とか明け染める光とか、ほんとに魂が打ち震えるような崇高な感覚だった。
いろいろ辛かったけど、この世のものと思えない美しさに人知を超える存在を思い、共に生きててよかった!と感動。
至るまでの道のりが厳格であればあるほど、この生の感覚は研ぎ澄まされ、死の存在も身近になってくるのだろう。光と影のごとく。

さらに生ある限り煩悩が付きまとうのも、人間らしい。
「ほとんどのものは登頂欲にがっちりと心を掴み取られているため、仲間の誰かが死んでも振り返って考え込んだりしない」。 
世界一の究極の空間で、登場人物たちがどう判断、行動していくか。
見どころのひとつである。

もうひとつ考えさせられるのが、エヴェレスト登山の営利事業化について。
この2冊の著者は、どちらも同じ営業公募隊の顧客8人のメンバーだった。
ガイド料6万5千ドルの見返りとして、一般ルートにはFIXロープが張られ、氷河にもアルミ梯子かロープ。アイスクライミングの技術はほぼ不要である。 
ベースキャンプで3人の顧客が始めて真新しい靴を履くシーンがある。 世界一高い山を登ろうというのに、
「家庭の雑事と多忙な職業に追われて時間がとれず、去年1年で1、2度以上クライミングに出かけた人は、ほとんどいない」のだ。
…うーむ、これならお金があったら私でも登れそうな。

この本の充実度は、筆者の実体験に加え、生き残った者の証言・検証をまとめて客観的に書き起こしている点にある。それは、もう1冊の方と読み比べるとよくわかる。
装丁も綺麗だし、登場人物表や版画の入った各章の扉なども工夫されていて、体裁も評価できる一冊となっている。

一方文庫のほうの「零下51度からの生還」は、死んだと思われ置き去りにされたが、奇跡的に第四キャンプのテントまで戻ってきた、アマチュア登山家の手になる本。
一病理学者である著者の遠征時のエピソードより、どうしてそんなにセブンサミットにこだわったのか、エヴェレストから生き帰って、どのように人生をやり直すことになったか、に焦点が置かれ、ヒューマニズム溢れた作品に仕上がっている。

山ヤのご多分にもれず、山活動に熱が入りすぎ、家庭が置き去りになっていた著者。
エヴェレスト遠征に参加する前後の心の動きや欝の持病、悩みながらも支える家族との絆など、とってもアメリカちっくな題材満載。
あ~家族ってなんだろう、なんて考えた本であった。

実はこの「零下…」の本、4月に亡くなった父の葬儀の日に見つけた。
実家に帰っても手持ち無沙汰で、気分転換で入った本屋さんで、普通に一般書として買ったのがこの本だったのだ。
この日買ったのはこの1冊だけ。なんでこんな日にこんな本を選んだのか、自分でもよくわからない。生と死が身近だったからか。あるいは本好き山好きだった父を思ったのか。

「空へ」の本は、この前北海道に行ったとき、たまたまえのきーが持ってたもの。
これはあの時のエヴェレストの出来事、って、読むまで気がつかなかった。
読むに値する面白い本だったけど、たぶんこれ、自分から手に取ることはなかっただろう。
でも、この時期この場所でこの本にあって、とってもふさわしかったような気がした。
本にも巡り合いってあるんだな、となんだかしんみりしました。

さー私もささやかな聖籠を探しに、今日から北アにでも行ってこよっと。

おまけ:
無理せず引き返す勇気の例としてでてた、ガーラン・クロップというスウェーデン人が気になるわ~。
シェルパも酸素ボンベも持たず、自転車積んで、海抜ゼロから山頂直下の8750mまで単独登攀。ブロードピークもチョーオーユーもK2もチャリつき単独登攀だって。すげー。

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登頂成功したんだ!

じゃーリベンジしたんだね。すごいなー。
この人のこと、もっと知りたくなった。

しかしまた、忘れた頃に細かい突っ込みを。
…いつか一服盛ってやらないと。

ちゃんと読んでませんね。

ガーラン・クロップは 5/23 に IMAX隊と共に登頂したと書いてありますよ。
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ふーじん

  • Author:ふーじん
  • 外岩初RPは05年10月、最高RPグレードは12a、OSグレードは11b。
    季節ごとに岩場が変わるクライミングが季語がわり。沢も山も旅も良し。
    あ、マンホールに顔パネも好きです。
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